映画「君たちはどう生きるか」

これはすごい映画です。ほんとにすごいと思います。

まず、印象的だったのは、その混沌さ。

いわゆる作品作り、ドラマ作りのいろはと言われる、ストーリーの起承転結が、一切感じられませんでした。

あらゆるシーン、エピソード、台詞や世界設定が、唐突に語られ、ほとんど回収されたり、説明されたり、解き明かされることなく、進んでいきます。

また、劇中でも、現実とファンタジーが曖昧に存在していて、その中で、主人公の「まひと」くんの心象風景の中で、「おじさん」と出会ったり、その後、出会いが幻想の世界で現実的に再現されたり。

いったい、どこまでがファンタジーでどこからが劇中の現実世界なのかが、少なくとも初見ではとても曖昧に感じました。

また、各キャラクターの動機も分かりません。

お父さんくらいでしょうか、やり手の実業家で家族を大切にしている。神隠しのように消えてしまった、息子と再婚相手を探し回りますし、女中のお婆さんたちも現実的なキャラとして、行動が理解できたのですが、その他の人たちは、まるで何かの厭世観に引き寄せられるかのように、塔に吸い込まれるように消えていく。

塔の中の世界も、まるでつかみどころがありません。

そこはまるで天国のように見える描写もあれば、

世俗的な街のように見える描写もあれば、

まるで死後の世界のように感じる描写もあれば、

インコたちが強固なヒエラルキーの中で生きている描写もあったり。

そう、あらゆる描写が、観客を、一定の観念に留めさせないようにしている気がしました。

そこにはまるで、表現者としての宮崎監督を象徴するかのような、年老いた創造主がいて、この幻想世界の世界の継ぎ手、つまり、自身の創作活動の後継者を求めているような、まるで作りてとしての遺書のように感じられる描写もありました。

かと思えば、若く幼い頃の宮崎監督を投影したかのような少年が主人公として描かれていて、これから表現者として現実世界を生きていこうとする意思表明のように感じられる描写もありました。

映画自体も唐突に始まり、そして、唐突に終わります。

見終わった後に、カタルシスを感じるようなドラマの流れは無いですし、登場人物に感情移入して涙するというようなものではないです。

つまり、支払った金銭に対するエンターテイメント性、商業性、新たな価値観や思想の提示、人生を鼓舞したり応援するようなメッセージ性、そうした、資本主義的なものは一切排除されたような、

あらゆる製作スタッフや会社を巻き込んだ、アニメやファンタジーというものの在り様を、世界中に問いかけるような、壮大な芸術作品を見たような感じでした。

風立ちぬ」は、職人的な生き様や戦時中の選択、という点で、人生の折に触れて見返そうと思う作品でしたが、

君たちはどう生きるか」は、そこに見出すもの、そこから感じるものがどう変わっていくのかを、折に触れて見ていきたいと思いました。

DVD出たら、買って見返したいと思います。

それにしても、こういう作品を、こういう形で、世に出せるってことが、ほんとにすごい事だと思います。

宮﨑監督のマグマのような創作性から、商業性を取ったら、やっぱこんなカオスな世界が作られるんだなぁというのを改めて感じました。

今まで、相当、観客目線に沿って作ってくれてたんだなぁと(笑)。

この訳の分からなさは、初めて、漫画版のナウシカのラストを読んだときの、脳みその持ってかれ方に近いです。

それが正しいのか、正しくないのか、賛成していいのかどうなのか分からない。

ただ、とてつもなく尊い何かを訴えているんじゃないか、

そして、それは自分にとってとても大切なことなんじゃないか、

そう思い、気が付くと、あらゆる場面や台詞や描写を思い出しては、思索に耽る。

当分、頭の中は、この映画のことでいっぱいいっぱいだと思います!!!

とりあえず、もう1回、観に行ってみよう。また何か違う視点を持てるかもしれない!

 

 

 

という気にさせられた映画でした。

 

ちなみに、本作は、一切の宣伝やPR活動を行わずに、公開に至ったことが話題になっています。

でも、内容見て、納得です。これは、宣伝のしようがない。何かのテーマを感じさせたら、この映画の面白さや魅力からはずれてしまうと思います。

逆に、観たジブリファンが、さまざまなSNSを通じて、勝手に映画について語ってくれた方が、よっぽど宣伝効果があるという判断なのでしょう。

広告宣伝費をかけずとも、全国何万といるであろうジブリファンが、勝手に宣伝してくれるんですもんね(笑)

僕もその語りたがりな一人として、ここに初見の感想を記しておこうと思います。

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